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高松高等裁判所 昭和31年(ネ)37号 判決

控訴人(原告) 谷川伊平

被控訴人(被告) 徳島市長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、原判決を取消す、被控訴人(但し合併前の名東郡新居町長)が昭和二九年九月七日控訴人に対する別紙目録(原判決添付の各目録を引用する、以下同じ)(一)記載地方税の滞納処分としてした別紙目録(二)記載不動産に対する差押処分はこれを取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方の主張する事実関係は左のとおり補充した外いずれも原判決摘示の事実と同じであるからここに引用する。

控訴人において「徳島市が旧新居町と合併したのは昭和三〇年一月一日である。又旧新居町は昭和二七年一月一日新居村が町制を施行した。昭和二四年度町民税の時効完成の主張は撤回する。昭和二七年一月一日町制施行前は村民税しか存しない筋合であるに拘らず町民税として滞納処分をしたのは違法である。のみならずそれ等村民税は賦課当時納入済のものでもある。督促状送達書に従来主張の違法がある外送達をした係員の氏名の記載をも要するに拘らずそれが存しないので督促状の送達は不適法であるからそれに基づく滞納処分も亦違法である。滞納処分のため差押をするには国税徴収法施行細則に定める第八号書式に依り差押調書を作らなければならないに拘らず本件差押に関し作成された差押調書はそれと規格、書式が異なるので差押も違法である。」と述べ。

被控訴人において「合併並びに町制施行の時期が控訴人主張のとおりであることは認める。村民税納入済とのことは否認する。滞納処分において、昭和二四、二五、二六年度町民税とあるのは町制施行前村民税として賦課したものであるが未納の儘繰越となり町制施行となつたため書類上町民税として処理されているものに過ぎない。差押調書は控訴人主張の様式に準拠すれば足りるのであり合致しないからと言つて違法とか効力を生じないかと言うことはできない。」と述べた。

(証拠省略)

理由

先づ被控訴人は本訴は出訴期間徒過後提起したもので不適法であると抗弁するので審按するに、合併前の旧新居町長(以下単に旧新居町又は旧町等と称する)が昭和二九年九月二五日付で控訴人に対し同人申立の地方税にかかる滞納処分に対する異議を棄却したこと及び翌二六日控訴人に該棄却決定が送達されたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証、原審証人菅村幸人の証言(控訴人は原審における各証人の証言を証拠とすることができないものであると主張するけれどもその尋問手続に主張の如き違背のあることを認められないし仮に違背があつたとしても異議を述べたことの窺われるものがないので当審においてそれを事由として右の如き主張をすることは許されないものと言うべきである)によると、旧町長のした右異議棄却の決定は地方税法の規定(第三三一条、第三七三条、第四五九条)に基づくものであることが明らかである。ところでそれ等規定によると該決定に対しては裁判所に出訴することができる旨規定せられその期間については何等の定めがないので一般原則によるとしたものと解する外はない。だから特別の定めである国税徴収法所定期間によるべきでなく行政事件訴訟特例法第五条一項の所定の期間によるべきものと解すべきである。しかして控訴人が本訴を提起したのは昭和三〇年三月二三日であること記録に徴し明らかであり右特例法に所謂処分のあつたことを知つた日から六ケ月以内であるから本訴が出訴期間徒過後提起されたものであるとの被控訴人の抗弁は理由がない。

よつて本案につき審理をする。旧名東郡新居町は昭和二七年一月一日同郡新居村に町制を施行したものであり昭和三〇年一月一日徳島市に編入合併されるに至つたものであることは当事者間に争がないところである。

しかして旧新居町長が昭和二九年九月七日控訴人に対する別紙目録(一)記載の如き地方税滞納処分として控訴人所有同目録(二)記載の不動産を差押えたこと、控訴人がその頃同町長に対し右処分につき異議の申立をしたけれども前段認定の如く棄却されたことは当事者間において争がない。

控訴人は、昭和二七年一月一日前の同二四、二五、二六年度における町民税徴収のため右滞納処分をされているが右三ケ年度分は町民税ではなく村民税しか存しない筋合である。しかも控訴人に当時賦課された村民税はその頃納付済である。従つて該滞納処分は違法であると主張するから調査するに、右三ケ年度分の村民税を納付したことについては何等の立証がないのみならず成立に争のない甲第二号証によれば、右滞納処分において昭和二四年度分税額一、一〇八円、同二五年度分税額合計九七〇円、同二六年度分税額合計一、〇五〇円の町民税並びにその督促費延滞金等徴収のため差押をしたことが明らかであるけれども他面前示菅村証人の証言により成立を認められる乙第一号証の一、二第二号証の一及び五、六、七第三号証の一及び七、八、九並びに同証言、本件弁論の全趣旨を綜合すれば、前記新居村と称していた当時同村は控訴人に対し右認定各年度毎に各年度分同額の村民税を賦課したが納付しないので繰越により町制施行のため旧新居町に引継がれるに至つたものであることを認められる。そうすると旧新居町徴税係員が旧新居村当時未納の儘引継いだ村民税をその後の町民税その他の地方税とともに滞納処分をするに際り誤つて町民税と表示したに過ぎないものであることが明らかであり斯る誤記の程度ではこれをもつて未だ違法と言うことはできない。

控訴人は右町民税等の徴収金につき控訴人に対し督促状を送達せず、仮りに送達されたとしても、国税徴収法第九条同法施行細則第一八条により督促状の送達には受取人たる控訴人をして署名捺印せしめ、かつ送達をした者の氏名を記載した送達書を作成しなければならないに拘らず本件督促状の送達については送達書が作成されていない。以上の如き違法があるにも拘らず右滞納処分がなされたものであると主張するから審究するに前示菅村証人の証言により成立を認められる乙第一号証の一、二第二号証の一乃至七第三、四号証の各一乃至九第五号証の一乃至五並びに同証人及び原審証人前川才一、市尾鹿一の各証言を綜合すると、旧新居村長及び昭和二七年一月一日以降旧新居町長においては、控訴人に対する前示目録(一)記載(但し昭和二四、二五、二六年度は村民税)の各地方税につき同目録(三)記載の如き督促状発付日頃記載の如き納期日を記した督促状を発付し、係員をしてそれを控訴人に送達せしめたことを認め得られる。控訴本人尋問の結果中これに反する部分はたやすく信用できず他に右認定を左右するに足る証拠はない。然るに右送達につき控訴人主張の如き送達書が作成されていないことは被控訴人の争わないところであるけれども地方税法においては第一九条第二〇条等書類の送達に関する規定を設けながら同法その附属法令にこれが送達書作成に関する規定は勿論国税徴収法施行細則第一八条等を準用する規定もないので本件の如き地方税に関しては国税の賦課徴収の場合と異なり書類送達に送達書の作成を必ずしも必要としないものと解せられるからこの点に関する控訴人の主張も亦失当である。

次ぎに控訴人は、右督促状は納期限をすべて昭和二九年二月二〇日以前と指定されている、ところで新居村税賦課徴収条例一二条、新居町税賦課徴収条例二二条によれば該納期限より六〇日以内に滞納処分をしなければならぬものであるに拘らず右六〇日経過後の昭和二九年九月七日本件滞納処分をしたのは違法であると主張するが、なるほど本件滞納処分は右条例所定の六〇日経過後になされているけれども該条例所定の期間は地方税法第三三一条、第三七三条、第四五九条の各第一項の委任によるものであるから同法により定められたものとなるがそれは当該徴収団体の事情に応じ事務を渋滞なく処理させるため条例の定めに委任したものであり従つてそれにより定められる期間も所謂訓示若しくは注意規定であつて期間経過後の滞納処分の効力に影響を及ぼすが如き強行規定でないと解するを相当とする。だから本件滞納処分は条例所定期間経過後なされたものではあるがそれが効力に影響しないのでこの点の主張も失当と言うに皈する。

又控訴人は、滞納処分としてする差押えには調書を作成すべく調書は国税徴収法施行細則に定める第八号様式の規格、書式によらなければならぬに拘らず本件差押の調書はそれと違うからそれによる差押えは違法であると主張するので按ずるに、地方税法の前示各条の各第一項に市町村の徴収吏員は国税徴収法の規定による滞納処分の例によつて処分しなければならない旨の規定があるので地方税徴収のためにする滞納処分は国税徴収法の規定による例によりしなければならぬから国税徴収法施行規則一六条により所定事項即ち滞納者の氏名及び住所、差押財産の所在及び名称数量等、差押の事由、調書作成の場所及び年月日の記載ある差押調書を作らなければならずしかも控訴人主張施行細則によりその調書様式が定められてはおるがその附則に当分の間それと異なる従前の様式のものでも使用できる旨の規定あるに鑑みれば細則所定の規格、書式に多少異なるところがあるとしても前示規則一六条所定の事項を具備すれば差押調書たるに妨げられるものでないと解すべく、本件の差押調書である成立に争のない甲第二号証は右細則所定の規格、書式と多少異なるけれども規則一六条所定の要件に欠けるところがないから差押調書たるに妨げられるものでない。然らば様式違背の差押調書であるから滞納処分が違法であるとの点も採用し難い。

以上説明のように控訴人の主張は孰れも理由がないのでその請求を棄却した原判決は相当である。よつて民訴法第三八四条、第九五条、第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 玉置寛太夫 太田元 加藤謙二)

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